越境であれ現地ECビジネスであれ、米国/カナダEC進出事業を担当とするとなったとき、様々なリサーチや事業開発計画書作成を経て、米国で現地開発ベンダーや戦略パートナーを探すタイミングが訪れると思いますが、その際、避けては通れないのが、ECサイトを構築するベースとなるECプラットフォーム選びとなります。
(ECプラットフォームの選び方はアメリカ市場向けECプラットフォームの選び方を参照ください)
「構築するECプラットフォームは何がいいか」 - その答えを探すためにリサーチをされた方は、すでにMagentoとShopifyの存在にはたどりついていると思います。そして、すでに他のプラットフォームに比べての優位性もうすうすと気づいていると思います。では、どっちがどのようにいいのか。次のステップをここではご紹介しましょう。
SaaS型プラットフォームShopifyとオープンソース型/PaaS型プラットフォームMagento
ShopifyとはカナダのShopify社が開発しているSaaS型のプラットフォームです。現在500,000社を超える企業がShopifyを利用しるといわれています。テーマやテンプレートがすでに開発されているため最短数日でストアを立ち上げることができます。また、拡張性の高いエンタープライズ版も用意されています。カスタマイズ機能が充実しており、ECサイトに必要な機能をアプリやAPIを使って簡易的に構築することが可能です。
Magentoは米国Magento社が開発しているECプラットフォームのオープンソースソフトウエアで、現在およそグローバルで15万のECサイトで利用されているといわれています。2008年3月31日に公開されました。ミドル級からエンタープライズ向けECプラットフォームで、オープンソースのため、誰でも無料でダウンロードを行い必要な機能を拡張しながら開発することが可能となります。現在のEC業界のシェアはShopifyが10%に対し、Magentoは29%であり、双方とも成長を続けているといわれています(参照:Aheadworks, 2016)。
Shopify/Magento-それぞれの相違点とは
どちらもとても優れたECプラットフォームなことに間違いはないですが、異なる点が多々あります。さらに複雑にいえばShopifyでは現在4種類のサービスが存在し、Magento では基本2種類のサービスが存在します。
まず、Magentoですが、基本的に、Magento Community Edition(CE) と Magento Enterprise Edition(EE) が存在します。オープンソース型ECソフトという基盤は同じですが、Magento Enterprise Editionにはさらなる拡張機能が備えられており、AWSをつかったCloud型サービスに進化します。複雑なバックエンド連携(決済代行会社、ERP、WMS、OMS等)、何万個にも及ぶ在庫更新への対応、シーズナルの商品入れ替えや、同時並行で行うプロモーション施策/管理などを行いたい場合は、エンタープライズ版をぜひおすすめします。ただ、もちろんネックもあります。オープンソースということは、自社でECサイトを構築しなければなりません。経験上、立ち上げるのには、要件定義に3カ月~半年かかり、プログラミングには数か月を要するプロジェクトとなります。
その反面、ShopifyはMagentoに比べて大きな利点があります。それは早期立ち上げが可能だという点です。備わっている機能はサイトに記載してある通りで、ECに必要な機能はすでに組みあがっているため、Basic、Shopify 、Advancedのプランであれば早いところで一週間でECサイトがオープンできます(もちろん条件はありますが!)。
またMagentoのようにShopifyにもエンタープライズ級に耐えうるShopify Plusというプラットフォームがあります。Shopify Plusの拡張機能も Magento Enterprise Editionに劣らず充実しており、欲しい性能・機能をShopify storeですぐに手にいれることができ、いままで頭を抱えていた複雑なEC構成も、アプリをうまく使うことで、すぐに対応することができます。
■価格
- ShopifyはBasic, Shopify, Advanced, Plusそれぞれ価格が異なります。また追加で、トランザクション費用が必要となります。こちらはShopify payment以外の決済代行会社(例:Stripe、PaypalやApple payなど)を導入した際には、プラットフォーム側で購入金額に対して数%単位で徴収します。
- Magento CEは無料、Magento EEは約$22,000/年~となります。Magento CEの場合はサーバーホスティング費用が必要となりますが、Magento EEの場合はCloudとなるため必要ありません。
■セキュリティ
- ShopifyはどのサービスもPCIコンプラアンスに準拠しており、マーチャントもカスタマーも利用できます。さらに、米国では特に気を付けたい不正利用に関しても無料でオーダーをスキャンし、危険度が高い受注はアラートを通知してくれるツールも合わせてついてくる機能があります。
- Magento CEは、クレジットカードのトークン化、前払い保証(前渡金返還保証)対応しておらず、PCIコンプラアンスに準拠していません。Magento EEは独自のセキュリティ対策を実施しています。
■機能
- Magento EEもShopifyも、受注管理・顧客管理等基本機能はほぼかわりません。ただ拡張性という点でいうとMagento とShopifyは大きく異なってきます。Magento は開発者さえいれば機能をどんどん追加していくことが可能です。アプリが存在しない場合は自己開発で補うことができます。一方、Shopifyの場合はソースへのアクセスが一部限られているため、拡張したい機能がアプリで提供されていない場合、開発に時間を要する可能性があります。
■マーケティング機能
- Magento CEはアドオンが必要ですが、Magento EEは分析に優れたツールが備わっています。とくに顧客分析を得意とし、かご落ちメール配信や、顧客セグメンテーション等一元管理ができるよう備わっています。さらにランディングページの公開タイマー設定等、新規プロモーションや新規顧客開拓に向けたマーケティングを実装するのをサポートする機能が備わっています。
- ShopifyもPlusにはさまざまなマーケティング機能が備わっていますが、基本的にアプリが必要です。ただ、Magento と異なり導入がボタン一つでできることが多く、フリートライアルも多いことから気軽に試せるところは良いと感じます。
さらに詳しく知りたい方はこちらから比較表をダウンロードすることができます。
おわりに
今年発表されたデータだけを見ているとShopifyの成長は著しい - 短期間の構築、簡易的に変更できる点や、今まで頭を抱えたソフトウェアアップデートの心配等をしなくていい点など、ECサイトのプラットフォームとしてShopifyはもってこいだと思います。ただ、細かなデザインや機能のカスタマイズを実現したい場合や、グローバルサイト・多言語機能の一元管理という点ではいまだMagentoが勝っているのではないでしょうか。
人気商品の上記2つに絞るのではなく、Shopifyと同じクラウド型のBig commerceや、エンタープライズ級のDemandware等、他の人気商品はやはりしっかりと知っておいたほうが良いでしょう。
結局は機能を比較したうえで、自分が開発したいサービスを実現するにあたりより親和性が高いプラットフォームを選択することが必要となります。自身の事業に見合った、ROIが戦略的に実現できるプラットフォームをぜひ選択いただきたいと思います。
著者:Masako.S
カナダ・モントリオールの大学卒業後、トランスコスモス本社/ウェブインテグレーションサービスにてWEBサイト構築ディレクターとして勤務。エンタメ企業・銀行・旅行会社と幅広いインダストリーの企業サイトの戦略コンサル・サイト構築/運用マネジメントを担当。2014年に米国事業開発部隊に異動。新規事業パートナ開拓や市場調査等を遂行し1年の半分は海外で生活を送る。2016年春にトランスコスモスアメリカのEC事業拡大要員としてLAへ赴任。現在はEC戦略コンサルタントとして日系企業様の米国EC進出のお手伝いを主に行っている。