かつて「toiletries(トイレタリー)」と総称されていたボディケアやシェービング、ヘア関連商品は、近年「Male Grooming(男性化粧品)」市場となって急成長を遂げています。ここでは男性化粧品市場の世界的な動向とアメリカにおける男性化粧品市場を概観するとともに、男性化粧品のオンライン販売の展望について見ていきます。
着実な伸びを見せる 男性化粧品市場
2015年における男性化粧品の売上は、世界全体で472億ドルと推計され、2020年までには年平均成長率5.2%で607億ドルに到達する見通しとなっています。
男性用化粧品の最大の市場は西ヨーロッパ地域で、2015年には124億ドル規模の市場です。次いでラテンアメリカ、第3位の北米と続きますが、特筆すべきは第4位のアジア太平洋地域が、年平均成長率8.1%と急激な伸びを見せていることです。世界人口の6割強を占めるこの地域がこの成長を続けていけば、2015年の78億ドルから2020年には115億ドルに拡大すると見込まれます。また、北米は世界人口の5%と、4つの地域でもっとも人口が少ないために、総額では他地域に比べて少なくなっていますが、年次成長率4.5%というアジアに次ぐ成長率を見せ、今後の拡大が期待されます。
アメリカ で急成長を見せるスキンケアとビアードケア製品
アメリカ国内に目を転じれば、2016年、男性化粧品の売上高は89億ドルにのぼり、前年比5%という好調な伸びが続いています。
売上を牽引しているのはスキンケア製品で、売上高3億1,200万ドル、ボディケアやフレグランスなどを抑えて前年比10%と最高の伸びを見せています。これは世界第3位の売上であり、今後2019年までにはさらに7000万ドルの増収が見込まれています。
また、ヒゲを整えるためのバームやオイルを含むビアードケア関連の商品も需要が高く、それに押される形でヘアケア製品も年率8%の伸びを見せています。
男性化粧急成長の裏には男性の意識変化が
こうした男性化粧品が急成長する背景には、男性の意識の変化が原因であるとの指摘があります。従来よりも男性は自分の外見に気を配るようになり、自分に自信を抱きたい、魅力的に見せたい、成功者であると思われたい、何よりも若々しくありたいという意識から、洗顔料や保湿剤ばかりではなく、美容液や日焼けスプレー、コンシーラー、泥パックなど、かつては女性用とされていた商品を、自然に受け入れるようになっているのです。
売上の80%は実店舗が占める
男性化粧品の販売は、実店舗が流通の80%以上を占めており、西ヨーロッパではスーパーマーケットやドラッグストアを中心とした実店舗のシェアが91%となっています。北米でも実店舗の割合が70%を占めていますが、未だ総売上の7%にとどまっているものの、今後オンライン販売が急速な伸びを見せると予想できます。
男性化粧品市場 におけるスタートアップや小さなブランドの強み
大手化粧品ブランドは、男性化粧品の専用ブランド(ユニリーバのアックスやP&Gのジレットなど)やサブブランド(クリニーク・フォー・メンやロレアル・メン・エキスパートなど)を設立していますが、男性化粧品市場では、独自の強みを持ったスタートアップや小さなブランドが登場しています。
新規参入したスタートアップの多くは、オンラインでのみ販売しています。オンライン販売は、参入コストも低く、消費者がアクセスしやすく、また消費者個人に特化した購買行動が可能だからです。
彼らはインターネットに精通したデジタルネイティブの世代をターゲットとしており、インフルエンサーを活用したり、ソーシャルメディアを通じて、彼らがクリックしたくなるようなコンテンツを作成したりして、従来とは異なるマーケティング戦略を取っています。
一例を挙げると、LAに拠点を置くDollar Shave Clubは、2012年に設立された小さなスタートアップでした。2015年のシェービング製品市場におけるシェアは0.9%、それに対して業界最大手のジレットは55%を占めていました。しかしソーシャルメディアを巧みに活用し、フェイスブックには300万以上の「いいね」を獲得しました。この数値はジレットよりも100万件も多かったのです。その後Dollar Shave Clubはユニリーバ社に10億ドルで売却されました。デジタル世代を取り込む戦略や、顧客データ分析とアクセスのスキルが高く評価されたのです。
こうしたスタートアップや小さなブランドが急速な成長を遂げているのは、彼らが消費者の未だ満たされていないニーズ=ニッチを見つけ出し、それを活用していることが大きな理由です。たとえばスキンケア製品であれば、女性の肌とは異なる男性の、様々な肌のタイプや多様な悩みに対する解決策を提供するものとなっているのです。シンプルで多機能の商品を開発することとともに、オンライン、とりわけSNSを活用して消費者を積極的に関与させる取り組みが求められています。
まとめ
男性の意識変化によって、「男性化粧品」は非常に成長が期待される市場だと思います。アジアが市場を牽引していますが、北米もまだまだ成長が期待できます。特にアメリカはスタートアップ企業など、小規模で参入して成功している企業がありますので、Eコマースでのアメリカ進出に向いている市場かもしれません。
在米15年。長らくトランスコスモスでのコールセンター事業運用に従事し、コールセンターの立ち上げや顧客管理業務を専門的に担当してきました。現在は営業として、日系企業が米国市場に進出する際のサポートを提供しています。米国市場は複雑で競争が激しいため、市場調査、販売戦略の開発、ローカルパートナーシップの構築など、包括的なサポートを行っています。