Amazonで販売する企業としない企業の販売戦略の違い

Amazonで販売する企業としない企業の販売戦略の違い

Amazon.comの巨大さ故に持たれる先入観

米国進出を考える企業とのやり取りをする機会が多く、米国での販売経路を検討するにあたり、このような質問をもらうことが頻繁にある。

“Amazon.comで販売するべきかどうか、迷っている。”

そもそも、Amazon.comでの販売に迷うポイントは「価格競争に陥る恐れがある」「手数料が高い」に加え、「ブランドイメージの低下につながりそう」という理由を聞くことが多く、オンライン販売は自社サイトに絞った展開をする日系企業も多いように感じる。しかし、本当にAmazon.comに商品を掲載し販売することにより、ブランドイメージにネガティブな印象を与えるのだろうか。今回はそのAmazon.comを販路として考えた際、ブランドに与える影響にフォーカスして整理してみたい。

Amazon.comの存在

10年以上前はまだAmazonで購入をするユーザーは限られていたかもしれない。少なくとも2017年現在のような、米国市場全体のEC売上シェア約50%をAmazon.comが占めるような環境ではなかった。年間99ドルへと値上げをしたプライム会員も2017年9月現在では会員数が9000万人におよぶ。今では誰もが認める最大のマーケットプレイスだ。米国での販売経路としてAmazon.comを選ぶことはごく自然のことのようにも思えるが、あえて販売をしない企業にはどのような理由があるのだろうか。

米国プライム会員数の推移(百万単位)

ブランドイメージが下がるという考え方

そもそも”ブランドイメージを低下させる”という印象はどこから生まれているのか。
いくつかの視点で探ることにした。

消費者からの視点

ある調査結果を見て頂きたい。これは、15年以上にわたって企業のイメージ調査をしているHarris Poll社が発行しているデータだ。米国の消費を最も占めるミレニアル世代・ベビーブーマー世代、それぞれの世代が持つ企業イメージのトップランキングをまとめており、いずれもAmazon.comが上位に入り込んでいる。

参考)The Harris Poll

また、同Harris Poll社が2013年に行なった信頼性ランキングではアップル、ディズニー、グーグル、Johnson & Johnsonをおさえて、Amazon.comが1位に選ばれている。これは「信頼感、賞賛、リスペクト」を意味する「感情へのアピール部門」で選ばれており、もちろん100%すべての米国国民が良い印象をAmazon.comに抱いているわけではないが、やはり多くの人から好かれている企業であり、必要不可欠なマーケットプレイスであることは間違い無さそうだ。

参考)The Harris Poll

世間一般ではこのようにプラスのイメージがあるAmazon.comだが、ブランドイメージが落ちるといった企業側の意見はどこからうまれるのか。販売戦略として、あえてAmazon.comで販売をしないことはどういう理由から成り立つのか。別の視点から整理してみた。

セラーからの視点

まず、企業がAmazon.comで売ることのメリットについて簡単に整理をしてみるが、やはり一番は膨大な数の新規顧客にリーチができるという「集客力」が挙げられる。加えて、Amazonの倉庫に商品を予め配送しておけば、顧客の購入から配送、カスタマーサポートまでワンストップで請け負ってくれるFBAもAmazonが選ばれるポイントだ。

企業が自社商品のオンライン販売を考えた時に、ECサイトを構築することも非常に重要だが、ターゲット層に向けたコンテンツや写真、サイトのデザインなど、構築には時間と費用をかける必要が当然出てくる。そのためAmazon.comでの販売は本格的に拡販することはもちろん、テストマーケティングとしてのフェーズどちらにも適応できる点に関しては非常に魅力的ではないだろうか。

一方、Amazon.comでは、ある特定の商品だと適さないというよりも、最大のマーケットプレイスである分、商品情報の掲載には厳しく細かな規定が存在する。

そのためブランドイメージに直結するポイントだけに絞ると、やはり写真に関する制限が影響するだろう。Amazonには写真撮影で禁止されていることが書かれた長いリストがある。「写真の背景はすべて消す。」「ブランドの名前やロゴも載せてはいけない」など。また、アパレルの場合では、肌の露出が多いとNGだ。

Amazonはあくまですべての年齢層に向けたマーケットプレイスであるため、商品そのもののシンプルな写真・イメージを好む。ブランディングのために用いるライフスタイル写真などは掲載がほとんどできないのが実情だ。

よって、「ブランドがもつ独特の世界観やストーリーを伝えることができない」となると、そのブランドにとって一番大切なところが完全に除外されてしまっているのかもしれない。

ブランドといえば、ファッションやアクセサリーといった商品カテゴリを思い浮かべるが、ブランドイメージやストーリーを忠実に表現した写真をふんだんに使い、自社のオンラインストアを展開しているところがほとんどだ。だが、背景が白い商品写真だけしか基本的には掲載できないAmazon.comでは「多くのブランドが販売をしていない」と考えるのは、大きな間違いだ。

2015年には衣料品小売の分野で米国大手百貨店Macy’sを抜いて、Amazon.comがトップに躍り出るというニュースがあった。また、2016年のAmazon.com衣料品売上げは約3兆円にも上る。このような規模になると、ブランドがAmazonとうまく付き合おうとしているのが明白だ。

ここまでの話の通り、安易に「ブランドイメージが下がる」という感触だけを理由に出店を迷っている企業は即刻Amazon.comで販売することをお勧めしたい。

Amazonでの販売を戦略的に選ばない理由

一方で、あえて販売をしないという強い考えを持つ企業もある。具体的なブランドの紹介は控えるが、購入者一人一人に対してとっておきな経験をしてほしいと強く願うブランドも存在する。

例えば、スキンケア商品の中でも10万円ほどする高価格帯のブランドで、品質・効能がいいことはもちろんのこと、商品開発には世界的に有名な女優を起用しており、自社ECでしか手に入らないという特別感を演出していたり、商品を郵送で受け取ったその瞬間から、宝箱を開けるような感覚で特別な経験を購入者に与える工夫をしていたりするのだ。生産性を重視しているAmazonだと、オペレーションの効率化を図るために配送箱や梱包内容をカスタマイズすることは困難で、特別かつ丁寧な梱包やラッピングをすることはできないため、商品が届いた瞬間から感動を与えることは確かに難しい。

もう一つの理由として、オンラインの販売では、顧客の導線やオンライン広告とのエンゲージメントを測ることが今後の施策を打つための重要なカギにもなるため、顧客の動きというのはできるだけ把握・分析をしたいものである。ところがAmazon.comのストアページだと、Google Analyticsなど一般の分析ツールが使えないため、外部の広告から流入を呼び込めたとしても、詳しく分析をすることはできない。収益性の高い写真やコンテンツを分析し採用していく過程が成り立たなくなるため、そのようなアクションを必要とする企業にもあまりお勧めはできないかもしれない。

商品が顧客に届いたところから感動を与えたい、自社ECサイトでしか買えないプレミア感を追及したい、顧客の動きをしっかりと分析したいといった強いポリシーをもつ企業はAmazonをあえて販路として選ばないのが自然だろう。「ブランドイメージが下がる」という印象だけで出店を迷っている企業はAmazon.comで販売することをお勧めしたい。

参考)statista.com、theharrispoll.com


筆者: Yusuke.M

半導体ベンチャーでの営業職を経て、人材コンサル会社に転身。キャリアコンサルタントとして、ひとの人生に関わる仕事の深さにハマる。事業拡張に伴い、支店立上げにも従事。その後、グローバルな環境で勝負できる人間を目指すため、渡米。

トランスコスモスアメリカではBusiness Development Managerとして、北米進出を検討する企業の課題や期待に幅広く応えるべく、“付加価値の追求”を常に意識しながら活動中。


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