日本でもアメリカでも、ECを運用する際に必ず必要な機能のひとつとなるコンタクトセンター。『コンタクトセンターの立ち上げ手順』*1に関しては日本もアメリカも基本的な考えは同じですが、実際に運用を設計するにあたってカバーすべき運用時間、チャネル、言語などアメリカ市場向けの設計が必要になります。
*1 電話以外のチャネルでのサポートも一般化し「コール」センターでなくアメリカでもコンタクトセンターと呼ぶようになっているため、以後「コンタクトセンター」で用語を統一する事とします
- 全体方針と役割・目標の設定
- 運用体制・業務フローの設計
- ファシリティ・システム構築
- 採用・研修
- 運用(品質管理)
今回はアメリカでのEC事業運用におけるコンタクトセンター設計の基本について整理していきます。
カバーすべき運用時間は?アメリカ本土だけでも複数のタイムゾーンが存在し、ハワイなども含めるとアメリカにおける「日中帯」は非常に長いです。こういった背景や、日本と違い深夜帯に勤務する労働者(コンタクトセンターオペレーター)の雇用が比較的容易であるという点もあり、アメリカでは24時間運用のカスタマーサポートを提供する企業も少なくありません。
基本、運用時間が長ければ必要になるオペレーターの人数も必然的に多くなりその分運用コストが上がるため、日本と比べれば多くの企業が24時間運用を実施しているものの、実際に24時間でのサービスを提供しているのはそれだけの売上や問い合わせがある大企業に限られています。
理想は週7日 9時~21時
では、EC事業をアメリカで展開するにあたりカスタマーサービスの運用時間をどうするか。最終的には企業のカスタマーサービスに対する考えや取り扱う商品・サービスによるところが大きいですが、目安としては以下のような考えで判断を行って良いと考えます。
① 月~金 9時~18時 | 最低レベル |
② 月~金 9時~21時 | 標準的(土日運用の重要性が低い場合) |
③ 週7日 9時~18時 | 標準的 |
④ 週7日 9時~21時 | 理想としてはこの時間をカバーしたい |
*東海岸時間を基準とした時間(西海岸は上記から-3時間)
カバーすべきサポートチャネルは?
日本では電話とメールの2つのチャネルだけのコンタクトセンター運用がまだ一般的ですが、アメリカはオムニチャネル対応の考えが企業で浸透しており、ユーザーの企業に対する期待値も日本に比べ高い傾向にあります。
Webチャット対応はほぼ常識的なものになっていますし、FacebookをはじめとするSNS上でのカスタマー対応も既に一般的になっています。例えば、企業としてFacebookのファンページを運用する場合は、そこにユーザーからのコメントによる問合せがあると思い対応準備を整える必要があります。
チャネル別の利用比率に関しては電話とメールの比率は日本と大きな違いはありませんが、前述の通りアメリカの企業では日本より多くのサポートチャネルに対応している事が多く、2017年にはデジタル(メール、チャット)系チャネルが非デジタル(電話)の比率を超えたと言われています。
アメリカでEC事業を展開するにあたり対応を検討すべきサポートチャネルを整理しました。
◎:基本 ○:可能な限り対応すべき △:企業による判断 X:検討不要
電話 | ◎ | テキスト(SMS) | △ | FAX | × |
メール | ◎ | 〇 | 郵便 | × | |
WEBチャット | 〇 | 〇 | LINE | × |
運用時間同様、提供する製品・サービスの性質、ターゲットとしているユーザー層の好むチャネルまた運用予算などを総合的に検討し対応するチャネルを決定していきます。
カバーすべき言語は?
アメリカ在住の日本人をターゲットにしているといった特殊なケースを除き、アメリカにおけるコンタクトセンター運用において検討が必要な対応言語は英語とスペイン語です。
事業規模が小さいうちは英語のみの対応で全く問題ありません。アメリカには南米からの移民が多い為、コンタクトセンターに従事する人材の中にも英語・スペイン語のバイリンガルも多くスペイン語対応を実施することはそれほど難しくありません。
英語 | ◎ | 必須 |
スペイン語 | 〇 | 必ずしも必要ではない |
フランス語 | △ | カナダを対象とする場合要検討 |
その他 | △ | ターゲットする人種により |
どこで運用すべきか?
この問いに関してはまず「自社で運用」するか「業務委託(アウトソース)」するかの判断が必要となります。日本同様、コンタクトセンターのアウトソーシングは一般的であり、企業のポリシーや事業規模、運用予算などによって判断する事になります。「自社で運用」する場合は、本社機能を持つオフィス内もしくはその近辺でコンタクトセンターを立ち上げる事になります。大規模運用になった際にはコンタクトセンター機能を人件費の安いエリアに持つことも検討すべきですが一定規模になるまでは自社内・近辺で運用を行うメリットの方が大きいです。
コンタクトセンターに限らず都市部・地方における人件費の差は日本以上に大きく、東西の海岸沿いの大都市(ニューヨーク、サンフランシスコ、シアトル、ロス)は非常に人件費が高く、内陸部にある州では低くなります。またアメリカのコールセンター運用においてはフィリピンやインド、中南米における“オフショア”“ニアショア”運用が一般化しており、多くの企業がアメリカ国外の拠点からカスタマーサービスを提供しています。
<運用拠点を決める際の判断基準>
- 運用規模(問合せ数や、必要な人員数)
- 自社か業務委託か
- 国内かオフショアか
- 本社オフィスの所在地(コンタクトセンター運用拠点からの距離)
- 予算
上記が判断のベースとなりますが業務委託の際にはその会社の実績や信頼性が一番重要となります。
用意すべき電話番号は?
トールフリー(日本で言うフリーダイアル)番号にするか一般番号を用意するかは日本同様、企業の決めで判断して問題ないありませんが、日本と比較し通信費(電話代)が安いアメリカではトールフリーを用意している企業の割合が多いです。余談とはなりますが、日本のように携帯電話番号(例 080)と固定電話(例 03)が番号で区別できるのと異なり、アメリカでは携帯番号も固定電話も番号だけでは区別がつきません。もちろん日本のように携帯電話番号にかけると通信費が高くなるという違いも発生しません。
トールフリーにせよ一般番号にせよ、番号の取得に関しては利用するコールセンターシステムのプロバイダー経由での取得か、そのオプションが無い場合は直接AT&T(日本でいうNTT)などから取得する事になります。
コールセンターの運用に必要なシステムは?
事業内容やコンタクトセンターでの対応範囲により異なりますが一般的には以下の機能が必要となります。
- 電話、メール、チャットなどを受け取り対応する為のシステム
- 対応履歴管理システム
- 顧客/オーダー情報管理システム
- は企業側の既存システムになりますが①②に関してはコンタクトセンターの運用上、オペレーターがお客様対応をする際に必要になります。業務委託を行う場合は委託先で準備があるはずなので心配はありませんが自社でコールセンターを構築する場合は、利用するシステムの選定・導入が必要となります。
コンタクトセンターの分野でも日本の1歩2歩先を行くアメリカでは電話、メール、チャットなどを一元管理・対応できるクラウドソリューションが充実しており、マルチチャネルの対応だけでなく②対応履歴管理の機能を備えたソリューションも多く存在しているので、予算や用途に応じて選択することになります。クライド系のソリューションを選ぶ場合はネット環境とパソコン、あとはそこにつなぐヘッドセットのみでコンタクトセンターとしてのシステムが揃うことになります。
以上、これらはあくまで一般的な情報であり、実際の検討に際しては競合他社の運用状況を研究するなど提供する製品・サービスに合ったコンタクトセンターの設計を行う事をお勧めします。